デング熱に感染し、発症すると急に高熱が出ることが多いのです。
特に、栄養状態の良好な幼児で重症化する傾向が強いとの統計も出ています。
子どもがいきなり高熱を出したら、苦しそうだから何とか解熱させてやりたいと思うのが親心ですが、
・・・ちょっと待ってください、その薬、大丈夫ですか?
解熱剤や坐薬の常識はどんどん変わる
1980年代の前半ぐらいまで、解熱剤は様々な病気での高熱に対して頻繁に使用されていました。
風邪でも、肺炎でも、水ぼうそうでも、インフルエンザ感染でも、食中毒でも、熱が出てしんどいという子どもには解熱剤の座薬を使って熱を下げてあげるのが、良いことだと思われていました。
親も、「この熱をなんとかしてやってください。」と言って病院に子供を抱いて駆け込んだものです。
大人の場合はその処方でそれほど問題は起こりません。
(寝たきりで、血圧の安定しない老人の場合は解熱剤でいきなり低血圧になって亡くなることがあり、高齢の方に使うのはむかしから慎重でした。)
ところが、子ども(15歳未満)の場合は、解熱剤の多くが、病気によっては命に関わる危険を伴う薬であることがわかってきました。
ということで、子どもの解熱剤として、現在医療機関が安心して使うことのできる唯一の薬は、アセトアミノフェンだけです。
前の記事でも書きましたが、
商品名にすると
カコナール、小児用バファリン、ノーシンジュニア、アンヒバ
などの小児用のお薬だけが、アセトアミノフェン単剤の市販のお薬です。
アセトアミノフェンが入っているけれども、同時に他の解熱剤が入っている薬など(例えばノーシンなど)は小児には使いません。
同様に、以前は使っていた総合感冒薬も、解熱作用の薬が入っている場合は、子どもにはほとんど使いません。
昔使っていたインダシン座薬やボルタレン座薬も、今では小児には使いません。
その点は心しておいてください。
仮に大人が処方されたお薬が家の薬箱や冷蔵庫に入っていたとしても、お子さんには絶対使わないようにしてください。
使ってよいのは、飲み薬のアセトアミノフェンだけです。
ウイルス感染症とライ症候群
どうして解熱鎮痛剤が危険なのでしょうか?
実はかつて、非常に致死性の高いライ症候群という病気が、インフルエンザや水ぼうそうにかかった子供で発生することが世界中で問題となっていました。
この病気、アメリカ全土では、年間500人以上の子供が発症していました。
そして、その30%、150人ほどは亡くなっていました。
生き延びた子供の多くにも、一生、改善しない脳障害が後遺症として残る病気だったのです。
1980年ごろ、アメリカのCDCという病気を監視・研究する国家機関が、ライ症候群の原因が、アスピリンなどの解熱剤の使用と関連するということを報告しました。
その後、様々な統計学的な研究が検討され、1986年にアメリカの健康管理の国家機関であるFDAから、小児にアスピリンなどのサリチル酸系の解熱剤を使うことは危険であるとの表示をすべきであり、原則、小児には使用すべきではないという勧告が出されます。
この勧告の効果は劇的でした。
勧告が出された7年後の1994年以降、アメリカ全土でのライ症候群の発症数は年間1~2人にまで激減したのです。
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM199905063401801
どうしてサリチル酸製剤でライ症候群が発症するのか、正確なメカニズムはわかっていません。
推測されていることは、
1.ライ症候群では細胞の中のミトコンドリアの機能が障害される、それはウイルス感染により、まず誘発されていること。
(ただし、全員がそうなるわけではありません。生まれつき、ミトコンドリアの機能がウイルス感染でやられやすい体質の子供でのみ、それが起こっていると考えられています。)
2.そしてサリチル酸は、健康なミトコンドリアを働かせる薬剤である(分解するためにミトコンドリアがフル回転で働く)、ということです。
つまり、インフルエンザ、水ぼうそう、デング熱などのウイルス感染でミトコンドリアの機能が落ちた小児に解熱剤を与えると、弱ったミトコンドリアがその機能を使い果たし、
3.ミトコンドリアの機能が完全に失われる事態が起こるのです。
ミトコンドリアの働かない細胞の多くは、正常に機能できません。
そして、それは薬物代謝をする肝臓の肝細胞や、ミトコンドリアの機能が重要な働きをする脳の神経細胞のさまざまな機能をストップさせてしまうのです。
4.このために肝機能不全や、脳障害を起こして、死亡したり、脳に重い障害が残るというわけです。
(実はその後、小児にアスピリンを使うのをやめなかった国においても、ライ症候群の発症率が激減したという話があります。だから、アスピリンは濡れ衣を着せられてたんじゃないかと一部の研究者が主張しています。
しかし、どちらにせよ、アスピリン系の解熱鎮痛剤を使わないことに、患者の側としてはとくに問題ありません。アセトアミノフェンがあるのですから。)
ウイルス性疾患による熱発は体の防御反応
さて、こういう怖い副作用のことを書くと、
「自分の子どもに、薬は一切使いたくない!」
と思われる方が多いと思います。
基本的には、私もそれに賛成です。
理由は、長いけど以下の通り。
多くのウイルス感染症に対して、私たちの体は免疫という防御システムを備えています。
その免疫システムが働くことで、多くのウイルス感染に対して高熱が出るのです。
発熱は、ウイルスに感染した細胞の機能を抑え込む効果があるので、ウイルスの増幅が抑え込まれます。
この間に、発熱に強い免疫細胞が、ウイルスに感染している細胞を破壊し、貪食してくれるのです。
これにより、ウイルスの増幅が抑えられ、感染症からの回復に向かうというわけです。
そう考えると、様々なウイルス感染症で熱が出るのはそれほど悪いことではないのです。
ということは、体の防御機構に働いてもらうために発熱を歓迎して、解熱剤を使わないという選択もありだと思います。
ただし、あまりにも高熱が出ると、ウイルスの感染していない正常な細胞もダメージを受けることがあります。
なにより、我々の体力も奪われます。
特に小さな子供や体力の落ちた高齢者では、連続する高熱が命を奪う原因となることもあります。
一つの目安は、38.5度を超えるかどうか。
それ以上の体温が長時間続くのはよろしくありません。
特に、脳にとっては良くないようです。
ですから、ウイルス感染症での発熱の場合、できるだけ早くアイスノンなどでわきの下や首の動脈を冷やしてあげるのは良いことです。
(脳に行く血液を冷やすことができるので、おでこを冷やすよりも効果的ですし、子供も早く楽になります。)
それで38度ちょっとぐらいまでに体温がキープできているのであれば、薬を使わなくてもほぼ、大丈夫です。
アイスノンを準備したりまめに変えてあげるのが面倒だから、薬で手っ取り早く下げよう、などとは、考えないようにしてください。
子供の将来に関わる問題です。
子どもに使っていい解熱剤のまとめ
原則として、使っていいのはアセトアミノフェンだけです。
大人用の薬を安易に使わないように。
できれば、38.5度くらいまでは解熱剤を使わずに、アイスノンなどで冷やして下げるように頑張ってみてください。
特に、デング熱、インフルエンザ、水ぼうそうなどの高熱の出るウイルス感染症のときは注意してくださいね。
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