出水のマナヅルの鳥インフルエンザウイルスはヒトに感染しないのか?

出水のマナヅルの鳥インフルエンザウイルスはヒトに感染しないのか?

鹿児島県出水市のツルの越冬地で、マナヅルの一羽が高病原性インフルエンザに感染していることが報告されました。

高病原性のH5N8ウイルスということで、周囲の養鶏場のニワトリへの感染が危惧され、現地で緊急対応が進んでいます。

でも、これ、ヒトへの感染は心配ないのでしょうか?

 

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高病原性H5N8インフルエンザウイルスとは何者か?

 

1280px-Grus_vipio_(White-naped_Crane)_at_Saijo,Ehime

http://commons.wikimedia.org/wiki/File%3AGrus_vipio_(White-naped_Crane)_at_Saijo%2CEhime.jpg

 

出水のツルの鳥インフルエンザに関する記事の一部を抜粋します。

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鳥インフル 出水のツル 強毒性 養鶏場は異常報告なし [鹿児島県]
2014年11月29日(最終更新 2014年11月30日 00時03分)
鹿児島県は29日、世界的なツル越冬地の出水平野(同県出水市)で衰弱した状態で見つかり、鳥インフルエンザウイルスの陽性反応が出ていたマナヅル1羽について、ウイルスは強毒性で致死率の高い「高病原性」のH5N8亜型だったと発表した。鹿児島大の確定検査で判明した。周辺は国内有数の養鶏地帯。県によると、発見場所の半径10キロ圏内の養鶏場から、異常の報告はないという。
以下略

=2014/11/30付 西日本新聞朝刊=
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/kagoshima/article/130229
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この「強毒性で致死率の高い「高病原性」のH5N8亜型」というウイルスは何者でしょうか?

 

高病原性のH5N8ウイルスの存在が最初にわかったのは2009年から2010年にかけての冬の中国でのことです。

2010年の段階では鳥に高病原性の新しいインフルエンザウイルスが流行りだした、それはH5N1ウイルスの変異したものらしい、というのがわかっただけのこと。

ようやく、論文として報告されたのは2013年春のことです。

 

Vet Microbiol. 2013 May 3;163(3-4):351-7. doi: 10.1016/j.vetmic.2012.12.025. Epub 2013 Jan 17.

Characterization of three H5N5 and one H5N8 highly pathogenic avian influenza viruses in China.

 

H5N1ウイルスがなんらかの異なるウイルスと混ざり合って新たな能力を獲得し、しかも高病原性を持っていたというものですね。

H5N1の発生以来、中国では家禽(ニワトリやアヒル)を守るために、200年代初頭からH5N1ウイルスに対するワクチンを頻繁に接種しており、これが新たな変異ウイルスを生み出すことにつながらないかと世界中が危惧していたわけですが、実際にしっかりこういうウイルスが生まれてしまったわけです。

 

その後、H5N8ウイルスは中国以外でも家禽に感染して被害を及ぼし、2013年から2014年にかけては韓国の養鶏場で大規模な感染拡大が認められていました。

熊本県などでも小規模ですが感染が確認されましたね。

 

Vet Microbiol. 2014 Oct 10;173(3-4):249-57. doi: 10.1016/j.vetmic.2014.08.002. Epub 2014 Aug 15.

Highly pathogenic avian influenza virus (H5N8) in domestic poultry and its relationship with migratory birds in South Korea during 2014.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25192767

 

そして今年、2014年から2015年にかけての冬のシーズン、鹿児島県、出水市のマナヅルでの感染が確認されたわけです。

(それ以外にも複数の都道府県で感染が確認されています。)

 

 

 

出水のマナヅルの高病原性H5N8インフルエンザは人に感染するのか?

 

一番怖いのはマナヅルで見つかった高病原性インフルエンザが人に感染するのかどうかです。

この可能性は今のところ、低いです。

 

インフルエンザウイルスは気道粘膜(人・鳥・豚などの場合)や消化管粘膜(鳥の場合)の細胞に感染する能力を持っているとされています。

さらに、そのウイルスの持つ遺伝子配列によってどの種に感染しやすいのかがいろいろわかっています。

 

現時点でわかっているH5N8ウイルスの遺伝子配列は、鳥には感染しやすいけれども人には感染しにくいものであると考えられています。

具体的な実験結果を以下の論文に見ることができます。

 

Influenza Other Respir Viruses. 2014 Nov;8(6):646-53. doi: 10.1111/irv.12289. Epub 2014 Nov 1.

A novel highly pathogenic H5N8 avian influenza virus isolated from a wild duck in China.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25363159

 

下の図はこの論文の図を抜き取ったものです。

H5N8 infection figure2

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人に感染しやすいα-2,6-linked sialic acidsという構造と

鳥に感染しやすいα-2,3-linked sialic acidsという構造の

どちらをH5N8ウイルスは好んで認識するかという実験です。

 

上の図Aに見るように、2009年に流行った新型インフルエンザH1N1が

完全にヒトに感染しやすい特性(赤い線のグラフ)を持っているのに対して、

上の図Bに見るように、出水のマナヅルに感染しているH5N8ウイルスは、鳥に感染しやすい特性(青い線のグラフ)を持っています。

 

しかし、注意深い人なら上のグラフを見れば気づくはずです。

H5N8ウイルスの赤い線のグラフ(人へ感染しやすい特性)が決して低くないことに。

そして、上の図のCやDに描かれているのはこのH5N8ウイルスを感染させたマウスの体重変化と死亡率です。

大量のウイルスを感染させればマウスにも感染しますし、致死的です。

 

WHOの専門家たちも言葉は濁しながら、ヒトにうつる可能性がないわけではないことに言及しています。

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H5N8型鳥インフルのヒト感染、「あっても少数」とWHO専門家
2014年 11月 19日 11:08 JST
11月18日、世界保健機関(WHO)は、欧州で検出されているH5N8型の鳥インフルエンザのヒトへの感染について、ごく少数の事例が出る可能性はあるものの、感染が拡大する公算は小さいとの見解を示した。(2014年 ロイター/Darren Staples)
以下略
http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPKCN0J303Q20141119
*****

つまり、決して気楽に考えていてよいウイルスではないことがわかります。

 

 

 

鳥インフルエンザウイルス 出水のツルを見に行くのは危険?

 

では、出水のマナヅルに近づくのは危険でしょうか?

双眼鏡で見るぐらいだったら大丈夫じゃないかと思いますよね。

上の西日本新聞の記事からもう一度抜粋します。

 

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出水平野のツルは15日の羽数調査で、観測史上最多の1万4378羽が確認された。現地には地球上に生息するマナヅルの4~5割、ナベヅルの9割が飛来するとされる。環境省は12月2~5日に野鳥緊急調査チームを派遣し、野鳥のふんを採取するなどして感染が拡大していないか調べる。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/kagoshima/article/130229
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Dingdarlingnnr

http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Dingdarlingnnr.jpg

 

1万4378羽のツルが一堂に集まって一斉に羽ばたくさまは、それはそれは素晴らしい見ものだと思います。

しかし、鳥インフルエンザに感染したツルが大量に含まれていると考えると、それは恐ろしい感染源と考えた方がいいです。

 

鳥は飛び立つ時に脱糞することが多いですし、脚についた泥も飛び立った直後にたくさん落ちてきます。

彼らが越冬地の田んぼや池で踏みしめている泥には、彼らの分が大量に混ざっています。

それがそばまで近づいたら、風向きによっては1万羽規模で降ってくるわけです。

 

鳥インフルエンザウイルスがパンデミックを危惧されながらも、まだ爆発しないのは人への感染能力が低いためだとされます。

感染してしまった人の多くは、家で家禽を飼育していたり、鶏肉処理業に携わっていたり、大量のインフルエンザウイルスに触れていたことがわかっています。

 

つまり、ヒトがたくさんのウイルスを吸い込んでしまった場合、感染しにくいH5N1やH5N8鳥インフルエンザウイルスであっても、感染する可能性が高くなるということです。

と、言うことを考えると、今シーズンはあまり近づかないことが無難でしょう。

 

少なくとも12月2日から5日に実施される緊急調査で、現地の野鳥の感染率が確認され、報告されて、安全宣言が出されてから動いた方がいいと思います。

ちなみに、H5N8ウイルスの元となったH5N1ウイルスにヒトが感染・発病した場合の致死率は50%前後です。

 

 

 

まとめ 冬場の野生の鳥にむやみに近づかない

 

もともと、インフルエンザウイルスというのはユーラシア大陸北部に住む水鳥の間にふつうに感染していたウイルスです。

今回、鹿児島県出水市に飛来したマナヅルに感染していたH5N8インフルエンザウイルスは、現時点ではヒトへ感染する可能性は低いと考えられます。

ですが、もしも大量のウイルスを吸い込んでしまったら感染する可能性は否定できませんし、その場合、致死的な強毒ウイルスとなりうると思われます。

 

冬場はインフルエンザウイルスに感染しやすい気候(低温で乾燥している状態)です。

どんなウイルスに感染しているかわからない野生の鳥には基本的に近づかないことが大事です。

特に、今年の出水のツル群は、できるだけ遠くから見るようにしましょうね。

 

いつか安全に見ることができる日が来るまで、気長に待ちましょう。

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